登記事項証明書等の見方 その3
こんにちは、行政書士再生コンサルタントの引地です。
前回は、不動産登記事項証明書の表示登記の見方についてご説明しました。
しかし、皆さんが業務をする上でより関係の深いのは、権利登記の方ではない
かと思います。
そこで今回は、より皆さんに関係のある権利登記についてお話ししたいと思い
ます。
権利の登記は「所有権」と「その他の権利」の2部構成
不動産の登記事項証明書は、表示登記の欄の次が権利登記の欄となっていて、
そのうち、まず最初に記載されているのが「所有権」に関する記載です。
この所有権に関する記載をする箇所を「甲区」といいます。
所有権には大きく分けて、保存・移転・抹消という3つの形態がありますが、
そのうち最もはじめのものが「保存」となります。
この「保存」とは、それまで何もなかった状態からあらたに権利が発生した
場合に使われるものです。
なので、建物については「所有権保存」から始まるのが普通ですが、土地に
ついては新たに発生するということが通常はないので、「所有権の移転」か
ら登記が始まるのが普通です。
しかし、例外的に、海や川などの公有水面が埋め立てられた場合などは、そ
の埋め立てによりはじめて土地が生じることになるので、このような場合に
は、「所有権の保存登記」から始まることとなります。
とはいえ、所有権に関する登記は義務ではありません。
なので、建物を新築しても所有権保存の登記をせずに、そのまま放っている
場合もあります。
なので、このような場合に、その建物を差し押さえるためには、その建物の
所有者自らに保存登記をさせるか、もしくはその建物の所有者に代位して保
存登記をしなければならないというひと手間がかかることになります。
そして、所有権に関して最もポピュラーなのが「移転登記」です。
この場合は移転の原因の種類(売買、贈与、交換など)によって、それぞれ
登記申請の際にかかる税金(登録免許税)が異なってきます。
また、所有権の移転で気をつけなければならないのが、その人がどのくらい
の所有権を持っているかという、「持ち分の確認」です。
所有権は共有者が多いほど、もしくは持ち分の移転が多いほど、複雑となっ
ていきますが、これを明確にしなければ、所有者の正確な権利の割合はわか
りません。
では、どうやってこれを調べていくかというと、これには主に2つの方法が
あります。
1つ目は、登記事項証明書の「共有者の目録」を利用する方法です。
この共有者の目録とは、共有者の数が一定以上になった場合に、法務局が便
宜的に作成し、閲覧をしやすくするために作るものです。
しかし、あくまでも便宜的に作られるものなので、すべての登記事項証明書
に備えられているわけではありません。(というよりは、ない方が普通)
2つ目は、ひたすら登記事項証明書の内容を遡っていき、最終的に一人の所
有者になるまで履歴を追っていくというものです。
例えば10-5という登記事項証明書の最後の方に、A氏の持ち分1/10と記載さ
れている場合、そこだけではなく同じ登記事項証明書のさらに以前のものを
見ていきます。
そして途中に、A氏へ持ち分1/10の移転が2回あったことが確認できれば、
ここでようやくA氏の持ち分は計3/10だということがわかります。
この程度の移転であれば苦労はないのですが、山林やマンションの底地など
の場合は〇/数十万といったレベルから追っていかなければならないことも
あるめ、持ち分の確認には細心の注意が必要となります。
次に甲区に記載されるものの中で重要なのが「仮登記」や「差押さえ・仮処
分」といった権利の記載です。
まず「仮登記」とは、権利証がないなどといった手続き上の問題で所有権の
移転ができない場合に、あらかじめその権利を保全しておくためにする手続
きとなります。
このような仮登記を1号仮登記といい、登記の目的としては「所有権移転の
仮登記」と記載されます。
また、仮登記にはこれとは別に、実態上の権利変動はまた生じていないが、
その権利変動をさせる請求権があ.るという場合に、あらかじめその権利を保
全しておくために認められるもので、これを2号仮登記といいます。
登記の目的としては「所有権移転請求権の仮登記」と記載されます。
これはわかりやすく言うと、所有権の移転を請求できる立場にあるけど、
まだ裁判で決着がついていないので、その間に他に移転がされないように行
うというケースが代表的なものです。
この1号、2号仮登記ですが、それ自体でどちらに優劣があったりするわけで
はありませんが、このいずれかの仮登記がされている場合には、この仮登記
を本登記にすると、仮登記の時に遡って順位を保全するという効果が認めら
れています。
つまり、甲から乙が所有権の移転を受けたにもかかわらず、甲がその登記に
協力しない場合には、乙は甲の同意を得ることなく所有権移転の仮登記をす
ることができます。
しかし、もし、あなた(丙)がこの段階で、仮登記の存在を見過ごして甲か
ら所有権の移転を受けて登記をし、その後に、乙の請求が認められて仮登記
が本登記にされてしまうと、あなたの所有権は失われることになります。
1 番 → 2 番 → 3 番 → 4 番
甲所有権 乙仮登記 丙所有権 乙本登記(所有権)
※4の本登記時に失われる
なので、所有権移転の仮登記が設定されている場合には、その仮登記が抹消
されるまではそれ以外の登記をしないのが普通です。
また、これとは別に、所有権の移転を制限するとして「仮処分」や「仮差押
さえ」というものがあります。
仮処分とは、例えば、ある不動産の所有について裁判をしている場合に、そ
の所有権が他に移転されてしまうと、今度はその移転先の者を相手に裁判を
しなければならなくなってしまいます。
このような無駄を防ぐため、あらかじめ現在の所有者にその不動産の所有権
の移転などをしないよう命令してもらうことができます。
このような命令を「処分禁止の仮処分」とをいいます。
また、(仮)差し押さえ、とは債権者がその不動産を競売して貸金の回収を
する場合などに、その前提として設定される権利をいいます。
「差押え」と「仮差押え」の違いは、前者が確定した判決などにもとづいて
不動産の競売をする場合に行うものであるのに対して、後者は判決がなくて
もこれをすることができるところに違いがあります。
仮差押えは、裁判所に疎明資料(こちら側に権利があって、すぐに財産を保
全する必要があるのが確からしいと裁判官に認めさせる程度の資料)を提出
してこれが認められれば可能となります。
ただし、仮差押えは確定的な権利ではないため、仮差押えをした人がその後
裁判で負けた場合にはその効力は失われます
しかし、いずれにしてもこの仮処分や(仮)差押さえがされている場合には、
処分に制限があったり、所有権を取得できなくなる可能性があるため、その
後の登記を行うべきではありません。
その他の権利は(根)抵当権に注意!
甲区の欄の次には、「その他の権利」を記載する乙区欄が続きます。
この欄には、所有権以外のすべての権利(抵当権、根抵当権、地上権、賃借
権、質権、これらの仮登記)が記載されることになります。
このように権利の種類にはいろいろなものがありますが、実際に気をつけな
ければならないのは、抵当と根抵当権の2つです。
この2つの権利はどう違うのかといえば、不動産を担保するという意味では
その役割は同じですが、担保の範囲が異なります。
抵当権は初めに借りた金額が1,000万円であれば、この1,000万円を限度に設
定され、それ以降、減ったり増えたりすることはありません。
これに対して根抵当権では、はじめに1,000万円を限度に設定した後に再度
追加でお金を借りたいという場合に1,000万円の限度内で何回でも貸したり
返したりを繰り返すことができます。 ※枠の再利用
たとえば、限度額1,000万円の根抵当権を設定し、残額が600万円の時点で、
また、お金を借りたいと思った場合、同じ根抵当権の枠を利用して限度枠ま
でのあと400万円を借りることができるわけです。
しかし、もしこれが抵当権の場合には400万円の借り入れのため、また新た
な抵当権を設定しなければならないことになります。
抵当権と根抵当権には、このような違いがあるのですが、気をつけなければ
ならない点はほぼ共通しています。
それは、
「いくらの金額で(根)抵当権が設定されているのか?」
ということです。
抵当権の場合には、借入時の債権額が記載されているので、この金額をもっ
て借入額を計算します。
しかし、(根)抵当権は、先のケースのように増えたり、減ったりするので、
現時点で本当の借り入れがいくらあるのかは、登記簿を見ただけではわかり
ません。
なので、根抵当権が設定されている場合には、通常、その極度額の全額を債
権額として計算します。
つまり乙区に、
1番 抵当権1,000万円 2番 根抵当権1,500万円
3番 地上権 4番 根抵当権設定仮登記500万円
という権利が設定されていた場合、この不動産に設定された担保の金額は合
計で3,000万円ということになります。
4番の根抵当権は、今の時点では仮登記ですが、担保金額を計算する場合には
この500万円も数にいれます。
そしてこれがわかれば、後はその不動産の評価額と比較して差額がいくらか
を計算すればその不動産にはあといくらの担保余力がある(その不動産担保
にして追加で貸せる額)のかということがわかります。
ただし、抵当権のような担保物件以外の用益的な権利(地上権、賃借権、地
役権)が設定されている場合には、担保価値には影響はありませんがが、利
用に一定の制約が生じます(他人に貸せなくなる、一定以上の高さの建物が
建てられなくなるなど)ので、注意が必要です。
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